インタビュー調査

本科研では、まず、「熟練看護師が実践する「安楽」なケアのモデル化~各看護領域を対象としたインタビュー調査~」を実施しました。 下記に概要を述べます。

1.インタビュー調査

1.研究の背景 「安楽」は看護の中心定理であり1)、「安全・自立」と共に看護の基本原則と説明されている2)。「安楽」は、「その人らしい生活の中で、身体的・精神的・社会的な苦痛や、不安、不満がなく、楽だと感じている状態」と定義される一方で、抽象的であると指摘される3)。看護師が患者に「安楽」をもたらすケア(以下、「安楽」なケア)を示した研究に、内科系外科系成人病棟に勤務する熟練看護師が実践している「安楽」なケアをモデル化した研究がある4)。だが、これらは、すべて内科および外科系成人病棟看護師を対象とした限定的な研究であり、看護の基本である「安楽」の知識体系には至っていない。「安楽」なケアは、急性期や緩和ケアなど特定の病状において、在宅看護など場の異なりによって、小児や高齢者など発達段階に応じて、多様であると考える。また、日本は少子超高齢社会の真っただ中にある。医療費は超過の一途をたどり、病院での在院日数は短縮され、医療や看護の場は在宅へと移行している。病院と在宅をつなぐ看護師の役割は拡大し、多様な特性をもつ対象に看護ケアを実践する必要性に、これまで以上に迫られている。これらのことから、看護師が患者の「安全」だけでなく、患者に「安楽」をもたらすケアを実践するためには、熟練看護師の実践知に基づく「安楽」なケアの知識体系を構築することが急務であり、また、看護師の実践力を向上させるための包括的コンピテンシー・プログラムを開発することが不可欠である。
安楽の類似概念にcomfortがあるが、すでに実践が体系化され、検証を経て理論化されている5)。しかし、comfortとは異なり日常語ではない「安楽」は、日本の看護において独自の概念として発展しており4)、未だ看護の様々な領域を網羅した知識の体系化がされておらず、学術的探究が求められている。そこで、本研究では、主要な看護の場における熟練看護師の「安楽」なケアを、知識体系として構築する為の第一段階として、各領域の熟練看護師が実践する「安楽」なケアをモデル化する。

2.研究の目的

本研究の学術的独自性は、日本の看護の中で独自に発展し、看護の中心定理である「安楽」を、包括的にモデル化し知識体系として示すことである。今回は、第一段階として、各領域の熟練看護師が実践する「安楽」なケアをモデル化することを目的とする。

3.研究により期待される成果・発展性

熟練看護師が患者に「安楽」をもたらすケアには、どのような実践の知識(実践知)があるのか。看護領域それぞれの「安楽」なケアには、どのような普遍性があり、独自性があるのか。実践知の中の普遍性と独自性が明確になれば、「安楽」なケアを知識として体系化できると考える。本課題には、中心定理であるのに、概念の抽象性を明確にせずして、看護師は等しく患者に「安楽」をもたらすことができるだろうか、という逆説的な「問い」もある。患者に「安楽」をもたらすための能力獲得を目的とするコンピテンシー・モデルが開発されれば、看護師が患者に「安楽」をもたらすケアの実践は促進されるであろう。

4.試験の方法

4.1 研究デザイン 無記名自記式オンラインアンケートによる横断的調査
<設定根拠>
インタビュー調査
4.2 対象
4.2.1 選択基準
安楽な看護を実施している看護師
各看護領域※注1で卓越した看護実践を行っている熟練看護師※注2   
※注1:各看護領域(8領域) 集中治療・急性期看護、回復期看護、緩和ケア、精神看護、在宅看護、
母性看護、小児看護、老年看護
※注2:臨床経験7年以上(先行研究に準じて設定)

  • [引用文献]

    1)見藤隆子、小玉香津子、菱沼典子総編集:看護学事典(2006).本看護協会出版会 W.C.チェニッツ. (1992). グラウンデッド・セオリー 看護の質的研究のために. (樋口康子, 稲岡文昭, 訳) 医学書院
    2)日本看護科学学会第4期学術用語検討委員会(1995):看護学学術用語 NURSING TERMINOLOGY, 6
    3)佐居由美(2004a):看護における「安楽」の定義と特性、ヒューマン・ケア研究、第5号、71-82
    4) 佐居由美(2004b):看護実践場面における「安楽」という用語の意味するもの、路加看護大学紀要,30,1-9,
    5) Katharine Kolcaba (2003): Comfort Theory and Practice: A Vision for Holistic Health Care Research、Springer Pub

  • [参考文献]

    ・Dowd, T., Kolcaba, K.(2000). Using cognitive strategies to enchance bladder control and comfort. Holistic Nursing Practice , 14 (2), 91-103. ・Dowd, T., Kolcaba, K.(2000). Using cognitive strategies to enchance bladder control and comfort. Holistic Nursing Practice , 14 (2), 91-103.
    ・Kolcaba, K. (1999). The effects of guided imagery on comfort of women with early stage breast cancer. Oncology Nursing Forum , 26 (1), 67-72.
    ・L.O.Walker, K.C.Avant(2004),Strategies for Theory Construction in Nursing (4th Edition) ,Pearson Education,Inc.,中木 高夫、崎 修一 翻訳(2008)看護における理論構築の方法,医学書院,232
    ・佐居由美(2004a):看護における「安楽」の定義と特性、ヒューマン・ケア研究、第5号、71-82
    ・佐居由美(2004b):看護実践場面における「安楽」という用語の意味するもの、路加看護大学紀要,30,1-9,
    ・SAKYO,Y(2005):"A study of comfort care in Japan"  ICN 23^ Quadrennial Congress
    ・佐居由美(2008a).看護師が実践している「安楽」モデルの検証、ヒューマン・ケア研究,930-42
    ・佐居由美(2009):看護師の実践する「安楽」なケアの様相 安楽要素による「安楽なケア」のグループ化、聖路加看護学会誌、13(1)、17-23
    ・日本看護科学学会第9.10期学術用語検討委員会(2011):看護学学術用語 NURSING TERMINOLOGY、
    ・佐居由美(2012a):一般病棟看護師による安楽な看護のプロセス、2011年度聖路加国際大学博士論文
    ・佐居由美(2012b):日本の看護における「安楽」の歴史的起源,、本看護歴史学会誌 , 25, 85-98,
    ・佐居由美(2016).看護系刊行文書における「安楽」記述の活用の検討,ヒューマンケア研究.17(1),25-34
    ・Tanner C(2001): Competency-based education: The new panacea?. Journal of Nursing Education. 40 (9): 387-388.

聖路加国際大学 看護学研究科 佐居由美

This work was supported
by JSPS KAKENHI
Grant Numbers JP18H03078